2009.09.06 残された時間

俺は、社会に存在しなければならない。


引き篭りや、ニートとして許されるのは実家に寄生できている一部の人達に限られる。
ある意味で裕福な環境だ。

そんな環境の中で、引き篭りの人もニートの人も、実は闘っている。

うつ病の患者に「頑張れ!」は禁句と、相談員時代も、施設管理者としても言い続けてきたし、実際頑張れと言われてもたぶん頑張れないし、何を頑張るのかわからない。
頑張らなければいけないのに、頑張れないから、うつ病なのだと頭や知識で理解していても、まだ受容できていない自分がいる。
障害を持った人の最初の一歩は自分がどういう状態かを「受容」すること、つまり「受け入れる」事だ。

顔を洗う時、鏡に写るもう1人の自分が、他人目線で呟く。

「貴方の鬱病は軽度ですし、必ず改善します。会社に通うのもリハビリになりますよ。まずは短い時間帯から始めてみて、徐々に馴らしていきましょう。大丈夫、会社側の受け入れ体制に関しては自分も力になれます。貴方の上司の方とお話させていただければ、貴方の現状を説明し、可能であれば一度一緒に会社に行く事もできますよ。焦らずゆっくり治して、馴らしていきましょう。頑張り過ぎた自分、無理し過ぎた自分を少し休ませてあげましょうよ。ご家族も心配されてますよ。色々思いはあると思いますが、今はとにかく休んで、しっかり治しましょう。ご家族も私もサポートしていきますから。大丈夫ですよ」

そうだよなと、瞼を閉じ再び鏡の中の自分と対峙する。


そこにまた、自分と同じ顔をした誰かが、見下した目線で責めてくる。


「甘えるな。お前は会社が求めた数字は達成したかもしれないが、同僚や上司、スタッフそして自分自身が求めたレベルの業務がこなせず、本社への異動が怖くて逃げたんだ。家族や家計や、仕事仲間への負担や不安も考えずに逃げたんだ。毎日スーツ着て五時起きで通わなければならない環境に怯えたんだ。たまたま仕事がきつくて、自分の許容量を超えてしまい、誰が見ても最近あの人おかしいよねって感じだったから、それを上手く利用したんだ。わかってるんだろ?お前は自分の知識と演技力で周囲を騙し、病院のソーシャルワーカーすら騙したんだろ?どういえば、うつ病と診断されるかなんてお前はよく知ってるよな?本当にうつ病ならあの夜、7月25日のあの夜にさっさと飛び込んじゃえばよかったんだよ。1人でライブに行き、1人で帰ってきたじゃないか?うつ病の患者がそんな事できるかね?お前は責任逃れしてるただのサボリ魔だ。死ねよ。死んじまえよ。お前の家族は大丈夫だよ。お前が生きてなくても立派に生きて行くさ。会社なんてもっと大丈夫だよ。代わりは幾らでもいる。産まれてくる子にお前みたいな逃避した父親じゃ可愛そうだよ。わかるだろ?死ねよ。死んじまえよ。」

耳鳴りがする。

泣き崩れる。

そこにたまたま、二歳の娘から電話がくる。

「パパ〜パパ〜」

「ジャガ食べてるよ。パパ食べた?」

「パパ飛行機する〜。パパ遊びいく?」

泣きすぎて話ができない。

妻に変わる。

「大丈夫?」という妻の声すら自分には「またかよこいつ。何泣いてんだよ。さっさとちゃんとしろよ」と響く。

あともう僅かな期間で新しい命が産まれ、妻の負担はさらに大きくなる。

「大丈夫だよ。ごめんね、大丈夫」

何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないのかもう判断できない。

頭痛がひどい。

今日は午後二時まで布団から出れずにいた。

体はふらふら。

頭はもやもや。

それじゃいけないと意識がしっかりしてきた三時くらいに自転車で図書館に行った。

「うつを治す本」「心の疲れを癒す方法」という二冊を借りた。

大好きなはずの図書館も、視線や、目に入る情報量に目眩がし、頭痛がする。

帰りながら、今更だけどmixiを退会した事を悔やんだ。

退会の理由は明確だが、それにしても急すぎた。

やはり冷静な判断ができずにいたのだろう。

バックホーン関連のマイミクさんや、松戸、常磐線コミュニティ関連のマイミクさん、山口の友人など、多くの繋がりを一瞬にして無くしてしまった。

会社の休職も、もっと他に方法があったのでは無いか?

医者からの「すぐに休まないと貴方は危険な状態」との言葉を間に受けてしまった。

妻はただ、泣いていた。

あの涙の意味は未来への明確な不安に他ならない。誰より守りたい存在に対し抱かせた不安を取り除く術を持たない。

明日はまた病院だ。

残された時間は少ない。

あと24日間の間に復職に向けて進まなければならない。

家族を養うために。

家族を無くさないために。

急がなきゃ。